改正大気汚染防止法(VOC規制)と揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制について

はじめに
VOC規制の概要
VOC規制の必要性
VOCの発生源
VOC低減のための塗料・塗装業界の取り組み
おわりに

はじめに
VOC(揮発性有機化合物;Volatile Organic Compounds)とは、常温常圧で空気中に容易に揮散する物質の総称で、主に人工合成されたものを指し、トルエン、ベンゼン、キシレンなどを含みます。粘性が低くて、難分解性であることが多いため、地層に浸透して土壌、地下水を汚染します。一方、大気中に放出され、光化学反応によって光化学オキシダント(Photochemical Oxidant)やSPM(浮遊粒子状物質;Suspended Particulate Matter)の発生に関与していると考えられています。

光化学オキシダント(Photochemical Oxidant;Ox)
・・・工場ばい煙や自動車排出ガスに含まれている窒素酸化物や炭化水素が一定レベル以上の汚染の下で紫外線による光化学反応を繰り返すことによって生じる酸化性物質(オゾン、パーオキシアセチルナイトレート、ヒドロキシパーオキシドなど)の総称である。
粘膜への刺激、呼吸への影響等の健康影響のほか、農作物などの植物を枯らすなどの被害を及ぼす。

SPM(浮遊粒子状物質;Suspended Particulate Matter)
・・・大気中に浮遊している粒子状物質で、代表的な「大気汚染物質」の一つ。
その粒子径は、10μm以下のものと定義されている。

発生源は工場ばい煙、自動車排出ガスなどの人間の活動に伴うもののほか、自然界由来(火山、森林火災など)のものがある。また、粒子として排出される一次粒子とガス状物質が大気中で粒子化する二次生成粒子がある。
粒径により呼吸器系の各部位に沈着し、年平均100㎎/m3になると呼吸器系への影響、死亡率の上昇などがみられることが知られている。

VOCは1970年代初頭から農薬や、電気工場や半導体工場で洗浄剤などとして大量に使用されていましたが、当時規制する法律がなく、土壌にそのまま廃棄されていたものが、再開発等によって汚染事例が多数判明してきており、社会問題化しています。2002年には、「自動車NOx・PM法」を定め、2010年までにSPMに関わる環境基準の概ね達成を大気汚染防止行政の最重要課題としました。尚、ベンゼン、トリクロルエチレン等有害大気汚染物質に該当するVOCは、個々の有害性に着目して自主的取り組みが進められました。

自動車NOx・PM法
・・・1992年、関東及び関西圏の市区町村を対象に「自動車NOx法」が、ディーゼル自動車から排出される窒素酸化物(NOx)を抑制することを目的に定められたが、多くの地域で二酸化窒素の環境基準をクリアしていないことや、粒子状物質が(PM)が健康に悪影響を及ぼしているという問題を受けて、制定された。対象地域も中部圏が追加されている。

大気中に放出されるVOCは、環境省の試算では国内で2000年度に年間約185万トンと推計されており、諸外国に比べ単位面積あたりの排出量が高く、濃度も高い等の理由から、固定発生源からの削減義務等を規定する「改正大気汚染防止法(VOC規制)」の施行が予定されています。

VOC規制の概要
環境省は、2010年度までに大気環境基準を達成するには、SPM及び光化学オキシダントの原因物質の一つであるVOCの排出規制が効果的だと判断し、工場・事業所からの排出抑制を主目的とする改正大気汚染防止法(VOC規制)が2004年5月公布されました。

<<大気環境基準>>
SPM(浮遊粒子状物質;Suspended Particulate Matter)
…1時間値の1日平均値が、0.10㎎/m3以下であり、かつ、1時間値が、0.2mg/m3以下であること。

光化学オキシダント(Photochemical Oxidant;Ox)
…1時間値が、0.06ppmであること。

法規制と事業者の自主的取り組みにより、2010年度までに固定発生源から排出されるVOC量を2000年度に比して30%程度削減する事により、2010年度にはSPMと光化学オキシダントの間環境基準を概ね達成します。

規制の施行スケジュール
(↓テーブル)
1)閣議決定 2004年3月9日
2)公布 2004年5月26日
3)政省令の制定 2005年秋頃
4)法律の施行 2006年5月頃
5)既存施設の届出 2007年末頃
6)見直し 2012年頃
5年間の取り組みを踏まえ、環境基準の達成状況を評価し、見直す。

大気中に放出されるVOC量の約90%が、工場や事業場などの固定発生源から放出されており、改正法では、排出口から排出されたVOCの濃度を規制し、工場、事業所に設置される施設を規制の対象としています。

規制の要点
(↓テーブル)
No. 分類 内容
1 VOCの定義 ・VOCとは、大気中に排出され、また飛散した時、気体である有機化合物をいう。但し、SPMまたはオキシダントの原因とならない政令で定める物質を除く。
2 VOC排出施設 ・VOC排出施設とは、工場または事業場に設置される施設で排出されるVOCが大気汚染になり、排出量が多く、政令で定めたもの。
3 排出口 ・排出口とは、大気中にVOCを排出するために設けられた煙突や施設の開口部をいう。
4 排出基準 ・施設の排出口から大気中に排出される排出物のVOC濃度の許容限度として、環境省令で定める。
5 施設設置の届出 ・施設を設置する時には、都道府県知事に届出なければならない。
6 経過措置 ・既存施設は、法律施行実施日より30日以内に環境省令の定めにより、都道府県知事に届出る。
7 施設の変更 ・既届出の施設等の変更は、環境省令の定めにより、都道府県知事に届出なければならない。
8 計画変更命令 ・届出により、知事は排出基準に適合しないときは、60日以内に限り 計画変更や廃止を命じることができる。
9 実施制限 ・新設及び変更届出から60日経過後でなければ、施設の設置や構造、使用の変更はできない。
10 改善命令 ・知事は排出基準に適合しないと認める時は、期限を定めて改善または一時停止を命じることができる。
11 濃度測定 ・事業者は排出濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならない。
12 条例との関係 ・VOC以外の物質やVOC排出施設以外の施設については、条例で必要な規制を定めることを妨げない。
13 罰則 ・命令に違反した者は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金
・届出せず、または虚偽の届出をした者は、3ヶ月以下の懲役または 30万円以下の罰金
・届出を30日以内にしなかった場合は、20万円以下の罰金

規制対象外である屋外塗装などの開放系や、小規模施設についてもVOC排出抑制対策を推進する必要があります。
行政は、低VOC製品の開発、使用を促す施策を講じ、又、関係団体等事業者は、製品の低VOC化を促進したり、VOC排出抑制のためのガイドライン、計画等を策定するなどの取り組みを推進しています。

VOC規制の必要性
VOCは、光化学オキシダント及びSPMの二次生成粒子の原因物質とされています。光化学オキシダントは、大気中のVOCとNOxの混合系から太陽光照射による化学反応により生成され、SPMの二次生成粒子は、大気中のVOCが化学反応を起こし、更に反応生成物が凝集する事などにより生成します。
光化学オキシダント及びSPMの増加により、人間及び植物に悪影響を及ぼすことになります。

VOCの発生源
大気中に放出されるVOCの発生源別にみると、工場や事業場などの固定発生源が約90%であり、約10%が自動車などの移動発生源である。
また、国立環境研究所のシミュレーション調査によれば大気へ排出されているVOC量の比率は、需要分野毎で示されており、塗料・塗装に関わる比率は37%にもなります。

PRTRでの調査によると、2001年度の大気に排出されている比率は47%も占め、キシレン(エチルベンゼン含む)が 22%になります。

PRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register)
・・・人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、事業所からの環境(大気、水、土壌)への排出量及び廃棄物に含まれての事業所外への移動量を、事業者が自ら把握し国に対して届け出るとともに、国は届出データや推計に基づき、排出量・移動量を公表する制度。

塗料・塗装からの排出量比率を比較するとキシレン(エチルベンゼン含む)37%となり、トルエンを大きく上回ります。

VOC低減のための塗料・塗装業界の取り組み
建築塗装や船舶塗装のように、屋外において大規模に塗装をする場合には、放出されたVOCを集め、削減することは困難であり、VOC排出量を低減するためには、VOCの使用量の少ない塗料を選定、使用し、VOCの放出量を低減する必要があります。

塗料種類別のVOC排出量比較

 ただ、低VOC塗料の採用は、VOC排出抑制に効果的ですが、塗膜性能、塗装作業性、塗装設備などに対する課題も少なくなく、塗料ユーザーサイドの理解と抑制に対する積極的な取り組みが必要です。

塗料でのVOC排出抑制対応について
(↓テーブル)
対応方法 実施及び試行例 課題と問題点


化 含有VOC削減 建築内外装、電着塗料、 家庭用、窯業系建材 乾燥性、作業性低下、低温造膜性、塗膜強度
溶剤系からの変換 自動車中上塗り・補修、 車両、木工、構造物、 路面表示 乾燥性、作業性低下、塗膜強度、 光沢、鮮映性、コストアップ
無溶剤化 床、船舶、構造物 作業性、塗料ロス、コストアップ、多液化
ハイソリッド化 構造物、船舶、機械、 建材、金属 作業性低下、コストアップ、多液化
粉体化 電気機械、金属、機械 設備自由度限定、素材選択性、 コストアップ

おわりに
改正法の中には「国民の努力」として、VOCの使用量の少ない製品の選択によりVOCの排出、飛散の少ない製品の選択等により、VOCの排出、飛散の抑制に努力することになっています。

国民の努力
・・・何人も、その日常生活を伴う揮発性有機化合物の大気中への排出又は飛散を抑制するように努めるともに、製品の購入に当たって揮発性有機化合物の使用量の少ない製品を選択すること等により揮発性有機化合物の排出又は飛散の抑制を促進するよう努めなければならない。

(法第17条の14)
今回の法改正では建築や大型構造物など屋外で使用し排出されるVOCについては対象外ですが、VOCを大量に大気へ排出している塗料・塗装業界は早急な対応をしなければならず、排出量の少ない製品の開発、販売及び使用に努力しています。

実塗装現場(VOC放散低減を考慮し、水系塗料をローラーにて施工)

社団法人日本塗料工業会では自主目標を設定し、2006年に2001年比30%削減、2008年には50%削減とし、ユーザーと協同で目標の達成を目指すこととしています。