石綿(アスベスト)について

石綿(アスベスト)とは
石綿含有製品の種類・用途と規制等の状況
石綿による健康障害
大気中の石綿飛散の状況
建築物の解体,改修に際して
参考文献・資料

石綿(アスベスト)とは
石綿とは、天然に産出する蛇紋石系及び角閃石系の繊維状けい酸塩鉱物の総称であり、6種類に分類されます。6種類の内、産業界で使用されていたのは、クリソタイル、クロシドライト及びアモサイトの3種類であり、耐熱性、耐薬品性、絶縁性等の工業上の諸特性に優れているため、建材、電気製品、自動車、家庭用品など、これまで3,000種を超える利用形態があったといわれています。

石綿の種類
(↓テーブル)
石綿名 化学組成式
蛇紋石系 クリソタイル(温石綿、白石綿) Mg3Si2O5(OH)4
角閃石系 クロシドライト(青石綿) Na2(Fe2+、Mg)3(Fe3+)Si8O22(OH、F)2
アモサイト(茶石綿) (Fe、Mg)7Si8O22(OH)2
アンソフィライト(直閃石綿) (Mg、Fe)7Si8O22(OH)2
トレモライト(透角閃石綿) Ca2Mg5O22(OH)2
アクチノライト(陽起石綿) Ca2(Mg、Fe)5Si8O22(OH)2

クリソタイル アモサイト クロシドライト

石綿の電子顕微鏡写真
クリソタイル アモサイト

欧米で石綿の健康に対する危険性が指摘されて以来、我が国では、まず、労働安全衛生の問題として、又、昭和62年以降、学校などにおける吹付け石綿の劣化や損傷の問題が取り上げられてからは、室内環境や一般環境への汚染による一般住民の健康被害のおそれに関わる問題として顕在化しました。
その後、平成7年にクロシドライト及びアモサイトについて、労働安全衛生法に基づき製造・輸入・譲渡・使用等が禁止され、平成16年10月からは、クリソタイルについても、10種類の石綿含有製品について、製造、使用等が禁止されました。
平成17年6月下旬以降、石綿含有製品を製造していた工場や建設現場で働いていた方々の労働災害の事例や、さらには従業員の家族及び工場周辺住民の健康被害が明らかになり、石綿問題は再び大きな社会問題となっています。

石綿含有製品の種類・用途と規制等の状況
我が国は石綿の消費量のほとんどを輸入し、年間の輸入量は、高度成長期の1960年(昭和35年)代に急激に増加し、昭和49年の35万トンを最高に、1970年(昭和45年)代及び1980年(昭和55年)代は25万トンから35万トンに推移してきましたが、1990年(平成2年)代に入り年々減少し、平成17年は110トンになりました。昭和5年から平成17年までの76年間の総輸入量は、約988万トンとなっています。
平成7年度においては、石綿輸入量の約93%が建材に使用されました。

下記に建材以外の石綿含有製品を含め、それらの主な種類と用途及び規制や業界の自主的な製造中止の推移を示します。

石綿含有製品の種類と用途及び規制等の推移
(↓テーブル)
分類 石綿含有製品の主な種類 主な用途 規制等の状況
吹付石綿 鉄骨の耐火被覆、内壁・天井の吸音・断熱 昭和50年に原則禁止。
石綿含有吹付けロックウール
石綿含有吹付けバーミキュライト
石綿含有パーライト吹付け 鉄骨の耐火被覆、内壁・天井の吸音・断熱、天井の結露防止 ・石綿含有率5%を超えるものは、昭和50年に原則禁止。
・石綿含有率1%を超えるものも、概ね昭和62年頃に製造中止。
・法的には、石綿含有率1%を超えるものは、平成7年に原則禁止。平成17年の石綿則施行で全面禁止。
石綿含有保温材 配管やボイラー等の保温 概ね昭和55年頃に製造中止。
石綿含有耐火被覆材 鉄骨等の耐火被覆 概ね昭和62年頃に製造中止。
石綿含有断熱材 屋根裏の結露防止、煙突の断熱 概ね平成3年までに製造中止。
石綿含有ロックウール吸音天井板 天井の吸音 概ね昭和62年頃に製造中止。
ビニル床シート
ビニル床タイル 床 石綿含有のものは、昭和63年までに製造中止。
パルプセメント板 内壁、天井、軒天 石綿含有のものは、平成16年までに製造中止。
スレート・木毛セメント積層板 屋根の下地、壁 接着するフレキシブル板が平成16年に石綿含有製品の製造等を禁止。
石綿セメント円筒 煙突、ケーブル保護管、温泉の送湯管、排水管等 石綿含有のものは、平成16年に法的に製造・使用等が禁止。
押出セメント板 非耐力外壁、間仕切り壁
住宅屋根用化粧スレート 屋根材として張られた板の上に葺く化粧板
繊維強化セメント板 屋根、外壁、内壁、天井、軒天、耐火間仕切り
窯業系サイディング 外壁
クラッチフェーシング クラッチ 石綿含有のものは、平成16年に法的に製造・使用等が禁止。
クラッチライニング
ブレーキパッド ブレーキ
ブレーキライニング
断熱材用接着剤 高温下で使用の工業用断熱材同士の隙間の接着
石綿糸、石綿テープ グランドパッキン等の原料 平成18年度中に、既設の施設の使用については一部例外品を認めた上で、製造・使用等が禁止となる見込み。
石綿布 石綿手袋、衣服、前掛け、耐火カーテン、石綿布団等
石綿含有ガスケット 配管用フランジ部静止部分
石綿含有パッキン ポンプの軸封等の運動部分
電気絶縁用石綿セメント板 配電盤等

石綿による健康障害
 現在、石綿曝露に関連あるとして確認されている疾患としては、中皮腫、肺ガン、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚が知られています。これらはいずれも大気中の石綿を吸入することにより発生すると言われています。

石綿によって起こる病気とその部位

((社)日本石綿協会「せきめん読本」より転載)

1) 中皮腫
肺を取り囲む胸膜、腹部の臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等の表面を覆っている「中皮」にできる腫瘍です。悪性のものと良性のものがあり、悪性中皮腫はかなりまれな腫瘍ですが石綿が関与していることが多いとされています。
この腫瘍はかなりまれであり、肺がんに比べるとその頻度は1%以下です。
石綿の曝露から概ね20~50年後に発症します(約40年に発症のピークがあります)。
石綿以外の原因としては、戦時中まで使用されていたトロトラスト(放射性造影剤)、放射線、人工気胸術等によるものが報告されていますが、いずれも報告数は少なく、中皮腫のほとんどが石綿を原因とするものであり、中皮腫の診断の確からしさが担保されれば、当該中皮腫は石綿を原因とするものと考えて差し支えないと思われます。
最初の症状は、胸膜中皮腫では息切れや胸痛が多く、腹膜中皮腫では腹部膨張感や腹痛などで気づくことが多い。

2) 肺がん
肺がんは、石綿に特異的な疾患である中皮腫と異なり、喫煙をはじめ、石綿以外に発症原因が多く存在する疾患であり、石綿よりも喫煙の影響の方が大きいと言われています。
石綿が原因で生じる肺がんとそれ以外の肺がんとでは、発生部位や組織型に違いはありません。石綿が原因で生じる肺がんの場合、石綿の曝露から肺がん発症には、通例15~40年の潜伏期間があります。肺がんは、喫煙を初めとして様々な原因が指摘されている中で、石綿が原因とみなせるのは、肺がんの発症リスクを2倍以上に高める量の曝露(蓄積石綿曝露量25本/ml×年以上)があった場合とするのが妥当であるとされています。また、石綿の曝露と喫煙の両者がそろえば、肺がん発症のリスクは相乗的に高くなることが知られています。

3) 石綿肺
石綿肺は、肺が繊維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一種であり、石綿を大量に吸入することによって発生した肺線維症を特に石綿肺と呼んで区別しています。潜伏期間は、15~20年といわれています。
自覚症状としては、坂道や階段を上るときなどの息切れから始まることが多く、咳や痰が続いたり、胸や背中に痛みを感じたりすることがあります。
職業上石綿粉塵を10年以上吸引した労働者に起こるといわれる職業病の疾患であり、一般環境下における発症例はこれまでに確認されていません。

4) 良性石綿胸水
石綿の高濃度曝露の人に多くみられる皮腫瘍性の胸膜炎ですが、石綿以外にも様々な原因で発症する疾患です。良性石綿胸水は、石綿以外の原因を除外することにより確定診断がなされるため、石綿曝露歴が確認できなければ、石綿以外の原因による胸水とは区別はできません。
石綿の曝露から10年以内に発症することもありますが、多くは20~40年後の突然発症します。発熱、咳、胸痛、息切れなどの症状があるが、自覚症状がない場合もあります。
尚、一般環境下における発症例はこれまでに確認されていません。

5) びまん性胸膜肥厚
石綿による胸膜炎が発症すると、それに引き続き、胸膜が癒着して広範囲に硬くなり、肺のふくらみを障害して、咳・痰、反復性胸痛、呼吸困難等を来します。
原因不明のものや石綿曝露とは無関係なものがあり、石綿曝露の客観的な情報がなければ、他の原因によるびまん性胸膜肥厚と区別して石綿によるものと判断することは困難です。

6) その他の疾患
① 円形無気肺
臓側胸膜の病変が主体で、石綿曝露が原因で、良性石綿胸水後に発生する場合が多く、自覚症状はほとんどなく、咳、喀痰、胸痛、呼吸困難を訴える場合もありますが、まれです。ほとんど治療は必要とせず、経過観察にとどまります。

② その他の部位のがん
中皮腫、肺がん以外のがんについて石綿の関与を疑う研究報告もありますが、中皮腫、肺がんのように確立した知見といえるものは、現時点ではまだありません。

大気中の石綿飛散の状況
石綿は浮遊粉塵であると同時に繊維物質であり、単位は本(f)で表され、含有製品製造工場では大気汚染防止法に基づく敷地境界における測定が義務付けられています。

敷地境界基準値 : 石綿濃度10本(f)/1リットル

環境省では、平成17年7月29日付け「石綿問題への当面の対応」(石綿問題に関する関係閣僚による会合決定事項)に基づき、石綿による大気汚染の現状を把握し、今後の対策の検討に当たっての基礎資料とすべく、大気濃度調査が行われました。

調査地域分類別に集計・整理した結果
(↓テーブル)
地 域 分 類 地域数 地点数 最小値
(本/L) 最大値
(本/L) 幾何平均値
(本/L)
住宅地域 24 48 0.11未満 1.38 0.23
商工業地域 13 26 0.10未満 1.56 0.23
農業地域 4 8 0.11未満 0.68 0.31
高速道路及び幹線道路沿線 5 10 0.14未満 2.20 0.36
石綿製品製造事業場の旧所在地 3 12 0.14未満 0.89 0.31
石綿製品製造事業場等 17 34 0.11未満 1.75 0.34
廃棄物処分場 21 41 0.11未満 2.70 0.49
-うち最終処分場 12 23 0.11未満 1.69 0.42
- うち(中間処理施設【破砕施設有】) 5 10 0.14未満 2.70 0.64
- うち(中間処理施設等【破砕施設無】) 4 8 0.11未満 2.41 0.54
解体現場等(吹付け石綿除去工事)(敷地周辺) 17 64 0.10未満 2.15 0.26
解体現場等(吹付け石綿除去工事を除く)(敷地周辺) 2 8 0.11未満 1.81 0.36
蛇紋岩地域 3 6 0.11未満 0.39 0.19
石綿製品製造事業場(排気口付近) 9 9 0.10未満 2.72 0.36
解体現場等(吹付け石綿除去工事)(前室付近) 13 13 0.11未満 4.53 0.44
解体現場等(吹付け石綿除去工事)(排気口付近) 17 17 0.11未満 5.78 0.28
合 計 109 296

今回の調査結果はいずれの地域分類においても特に高い濃度は見られず、現時点で直ちに問題になるレベルではないと思われます。

建築物の解体、改修に際して
今後、建築物の老朽化による解体、改修の工事の増加に伴って、石綿を含有する廃棄物が多量に排出されることが予想されます。環境省では、建築物の解体による石綿の排出量が2020年から2040年頃にピークになると予測しており、年間10万トン前後の石綿が排出されると見込まれています。
石綿及び石綿含有物の取り扱いには、労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)、建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)及び石綿障害予防規則等が適用されます。これらの法律を遵守して事前調査・事前処置・施工・廃棄物処理等を行うことが必要となります。
一般的な戸建て住宅の場合、「吹付けアスベスト等」が施工されているケースはあまりありませんが、地下室や倉庫、鉄骨部分がある場合は、内部の壁や鉄骨の表面等をチェックし、確認して下さい。
但し、「吹付けアスベスト等」以外の石綿含有建材が使用されている可能性があります。これらは、良好な状態であれば、加工などの操作を行わない限り、石綿の飛散はないと考えられますが、成型板表面の経年劣化や、表面の被覆や塗装の剥がれによる表面露出により、石綿が飛散する可能性があります。

石綿含有建材一覧
(↓テーブル)
分類 石綿含有建材の主な種類 施 工 部 位
成型板等 石綿含有ロックウール吸音天井板 天井
ビニル床シート、ビニル床タイル 床
パルプセメント板 内壁、天井、軒天
スレート・木毛セメント積層板 屋根、壁
石綿セメント円筒 煙突、ケーブル保護管、温泉の送湯管、排水管等
押出セメント板 外壁、間仕切り壁
住宅屋根用化粧スレート 屋根
繊維強化セメント板 屋根、外壁、内壁、天井、軒天、耐火間仕切り
窯業系サイディング 外壁


(厚生労働省労働基準局発行パンフレットより転載)

塗料、塗材の過去の一部製品に石綿が使用されていたものがありますが、添加量も少なくセメントや合成樹脂などで固められていますので、通常の環境下で石綿粉塵が飛散することはない(非飛散性)と思われます。ただし、塗料、塗材が劣化して表面がかなり脆弱になっている場合、あるいは塗り替え工事や解体工事で塗料、塗材を削ったり、物理的な力を加えて除去する場合には、石綿が飛散することも考えられますので注意が必要です。
※塗材中の石綿含有の情報については、日本建築仕上材工業会(NSK)のホームページに記載されています。

住宅の改修にあたっては、建材中の石綿の含有の有無を確認し、石綿を含有する建材が使用されている場合は、工事に携わる労働者の健康障害の防止、大気への汚染防止、適正な廃棄物の処理を行い、石綿の飛散に充分注意を払わなければなりません。
住居に使用した建材の製造会社のホームページ、関連団体のホームページ等に石綿に関する情報が記載されていますので、建材中の石綿の含有の有無について検索できます。検索する際には、使用建材の‘名称’‘製造会社’‘製造年月日(又は建物の建築年月)’等が明確になっていることが必要です。
ホームページの検索により石綿の含有の有無が判明しない場合は、建材製造会社への確認、又はアスベスト分析機関での分析が必要となります。
建材中に石綿を含有していることが判明した場合は、専門業者と適切な改修方法を相談・決定し、各種法・規則に則って工事を行って下さい。
※アスベスト分析機関については、(社)日本石綿協会等のホームページに記載されています。

参考文献・資料
「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」(東京都環境局)
「平成17年度石綿緊急大気濃度調査結果について」環境省報道発表資料(平成18年3月31日)
石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会:「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方報告書」環境省・厚生労働省(2006)
大阪市都市環境局ホームページ‘アスベスト関係について’
日本建築仕上材工業会ホームぺージ‘アスベスト含有塗材情報’