はじめに
室内空気汚染問題
シックハウス症候群
厚生労働省
文部科学省
国土交通省
環境省
東京都
日本塗料工業会
経済産業省
今後の規制とTVOC
健康・環境配慮形塗料の選定基準
はじめに
目覚ましい科学技術の発展に伴い、人類の生活を豊かで快適なものにした現代ですが、その反面、自然を破壊し環境への負荷は地球環境にまで及んでいます。
地球の温暖化、酸性雨、生態系の破壊、資源の枯渇、廃棄物の増大、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など環境に対する問題が次々とクローズアップされてきました。
このような状況の中で近年の住宅における室内空気汚染による人体への影響が大きく取り上げられてきました。
室内空気汚染問題
室内空気汚染問題に対する行政の主な指針としては、厚生労働省の「室内空気汚染に係るガイドライン」によるホルムアルデヒドをはじめとする化学物質の室内濃度指針値の策定。文部科学省の「学校環境衛生の基準」の一部改訂として、学校工事後のホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンの濃度測定、及びその値を指針値以下とするように義務づけた。さらにこのたび国土交通省の改正建築基準法(平成5年7月施行)により、住宅内装材が規制になり、塗料及び仕上塗材ではホルムアルデヒドが規制の対象になります。これを受け経済産業省は、JISの整備見直しが行われました。
シックハウス症候群
新築・改築後の住宅において、住宅の高気密化や、使用された建材・内装等から放散する化学物質による室内空気汚染等により、居住者に様々な体調不良が生じている。症状が多様で、未解明な部分が多く複合的要因が考えられシックハウス症候群と呼ばれている。
症状は
● 目がチカチカする。
● 頭痛・めまい・吐き気。
● 鼻水・くしゃみ・せき・のどの痛み。
● 気分が悪い。
要因
● 住宅に使用されている建材、家具、日用品等から様々な化学物質が発散。
● 住宅の気密性が高くなった。
● ライフスタイルが変化し換気が不足しがち。
シックハウス症候群は
医学的に定義された病名ではありません。屋外にいるときは症状がないのに、住宅やビルの中に入ったとき体調不良の症状を訴える。これらを総称して用いられる名称です。
シックハウス症候群の原因の一部としてホルムアルデヒドやVOC(トルエン、キシレン等)と言われる揮発性の有機化合物があります。VOCとはVolatile(揮発性)Organic(有機)Compounds(化合物)の頭文字をとったものです。
厚生労働省
厚生労働省では、平成12年4月よりシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会で、室内空気汚染物(有害化学物質)について、下記の13物質がガイドライン(指針値)として示されています。
●有害化学物質の室内濃度指針値(↓テーブル)
揮発性有機化合物 室内濃度指針値 主な用途
ホルムアルデヒド 100μg/m3(0.08ppm) 合板、パーティクルボード、壁紙用接着剤等に用いられるユリア系、メラミン系、フェノール系等の合成樹脂、接着剤、一部ののり等の防腐剤
トルエン 260μg/m3(0.07ppm) 内装材等の施工用接着剤、塗料等
キシレン 870μg/m3(0.20ppm) 内装材等の施工用接着剤、塗料等
パラジクロロベンゼン 240μg/m3(0.04ppm) 衣類の防虫剤、トイレの芳香剤等
エチルベンゼン 3800μg/m3(0.88ppm) 内装材等の施工用接着剤、塗料等
スチレン 220μg/m3(0.05ppm) ポリスチレン樹脂等を使用した断熱材等
クロルピリホス 1μg/m3(0.07ppb)但し小児の場合は0.1μg/m3(0.007ppb) しろあり駆除剤
フタル酸ジ-n-プチル 220μg/m3(0.02ppm) 塗料、接着剤等の可塑剤
テトラデカン 330μg/m3(0.04ppm) 灯油、塗料等の溶剤
フタル酸ジ-2-エチルへキシル 120μg/m3(7.6ppb) 壁紙、床材等の可塑剤
ダイアジノン 0.29μg/m3(0.02ppb) 殺虫剤
アセトアルデヒド 48μg/m3(0.03ppm) ホルムアルデヒド同様一部の接着剤、防腐剤等
フェノブカルブ 33μg/m3(3.8ppb) しろあり駆除剤
総揮発性有機化合物量(TVOC) 暫定目標値400μg/m3
(ここまで)
※25℃の場合 ppm:100万分の1の濃度、ppb:10億分の1の濃度
●厚生労働省の室内環境に関する規制の要点
・室内濃度指針値以下が望ましい。
・VOC測定及び指針値以下の義務付けではない。
・ガイドラインは目標基準で規制ではない。
・室内のみが対象。(室外は対象外)
ppm とは
濃度の単位100万分の1を1ppmという。ホルムアルデヒド0.08ppmは1,000L中に0.08ml。
室内濃度指針値とは、その濃度の空気を一生涯にわたって呼吸しても問題ないであろう、またこの値以下が望ましいとする値。
ホルムアルテヒドは刺激臭の強い無色の化学物質で、室温では気体として存在します。殺菌作用があり、防腐剤、合板などの接着剤の原料、繊維の縮み防止加工剤など幅広い用途に用いられている物質です。
文部科学省
文部科学省では、平成14年2月より「学校環境衛生の基準」の一部改定を各都道府県教育委員会等に通知しています。
●文部科学省の室内環境に関する規制(改定)の要点
定期環境衛生検査 ・・・・・ 教室の空気の検査事項として
・毎学年1回の定期検査の実施。
・ホルムアルデヒド、トルエンについて濃度測定実施。
キシレン、パラジクロロベンゼンについては必要に応じ実施。
・判定基準値は厚生労働省の指針値に準ず。(上記の数値以下であること。)
事後措置は
・換気を励行する。
・その発生の原因を究明する。
・発生抑制措置をとる。
臨時環境衛生検査
・コンピュータ等新たな学校用備品の搬入等により発生の恐れがあるときに実施。
・新築・改装・改修工事後にホルムアルデヒド測定を義務付け。
↓
基準値以下であることを確認の上で引き渡し
国土交通省
建築基準法が平成14年7月に一部改正(15年7月より施行)され、その第28条の2に「居室を有する建築物は、その居室内に於いて政令で定める化学物質の発生による衛生上の支障がないよう、建築材料及び換気設備について政令で定める技術的基準に適合するものとしなければならない」と制定されました。これを受け、技術的基準として「建築基準法施行令の一部を政令」が公布される。これに伴い国土交通省告示により、それぞれ第一種、第二種及び第三種のホルムアルデヒド発散建築材料が定められました。また関連のJISが改正されました。
発散と拡散
・発散 建築基準法施工令及び告示で用いられる用語
・拡散 JISで用いられている用語。
事実上同意語
●規制対象工事
・公共、民間を問わず居室の内装工事。
●規制対象物質
・ホルムアルデヒド、クロルビリホス(しろあり駆除剤)
●規制対象材料
・木質建材(合板、木質フローリング、パーティクルボード、MDFなど)、壁紙、ホルムアルデヒドを含む断熱材、接着剤、塗料、仕上塗材など。
●規制対象範囲
・「居室」の内装仕上げ、天井裏における面的な部分。
増築、改装、大規模の修繕大規模の模様替え工事にも適用。
対象外
柱等の軸材や回り縁、窓台、巾木、手すり等の造作部分、建具枠、間柱、胴縁、部分的に用いる塗料(タッチアップ等)、接着剤等。
●規制対象居室
居間、寝室、事務室、会議室、工場作業場、店舗の売り場、厨房、教室、職員室、応接間、食堂等。
居室とは居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室をいう。
対象外
玄関、廊下、トイレ、浴室、納戸、更衣室、事務所の給湯室等。
対策1
①建築材料の区分
内装仕上げに使用するホルムアルデヒドを発散する建材こは、次のような制限が行われます
(↓テーブル)
建築材料の区分 ホルムアルデヒドの発散 JIS、JASなどの 表示記号 内装仕上げの 制限
チャンバー法 テシケータ法
建築基準法の
規制対象外 5μg/㎡h 0.12以下mg/L F☆☆☆☆ 制限なしに使える
第3種ホルムアルデヒド
発散建築材料 5~20μg/㎡h 0.12~0.35mg/L F☆☆☆ 使用面積が制限される
第2種ホルムアルデヒド
発散建築材料 20~120μg/㎡h (0.35~1.8)mg/L F☆☆
第1種ホルムアルデヒド
発散建築材料 120μg/㎡h超 (1.8以上)mg/L 旧E2、Fc2又は表示なし 使用禁止
備 考 対象となる建材 塗料限定の測定法
チャンバー法…JIS A1901スモールチャンバー法→ホルムアルデヒドの放散速度測定
デシケータ一法…JIS K5601塗膜からの放散成分分析→ホルムアルデヒドの放散量測定
μg(マイクログラム)
100万分の1gの重さ。放散速度は1μg/㎡hは建材1㎡につき1時間当たり1μgの化学物質が発散されることをいいます。
建築物の部分に使用して5年経過したものについては、制限なし。
②第2種・第3種ホルムアルデヒド発散建築材料の使用面積の制限
第2種ホルムアルデヒド発散建築材料(F☆☆)及び第3種ホルムアルデヒド発散建築材料(F☆☆☆)については、次の式を満たすように、居室の内装の仕上げの使用面積を制酸します。
N2S2 + N3S3 ≦ A
第2種分 第3種分
S2:第2種ホルムアルデヒド建築材料の使用面積
S3:第3種ホルムアルデヒド建築材料の使用面積
A:居室の床面積
(↓テーブル)
居室の種類 換気回数 N2 N3
住宅等の居室(※) 0.7回/h以上 1.2 0.20
0.5回/h以上0.7回/h未満 2.8 0.50
上記以外の居室(※) 0.7回/h以上 0.88 0.15
0.5回/h以上0.7回/h未満 1.4 0.25
0.3回/h以上0.5回/h未満 3.0 0.50
※ 住宅等の居室とは、住宅の居室、下宿の宿泊室、寄宿舎の寝室、家具その他これに類する物品の販売業を営む店舗の売場をいいます。上記以外の居室には、学校、オフィス、病院など他の用途の居室が全て含まれます。
対策2
ホルムアルデヒドを発散する建材を使用しない場合でも、家具からの発散があるため、原則として全ての建築物に機械換気設備の設置が義務付けられます。
(↓テーブル)
居室の種類 換気回数
住宅等の居室 0.5回/h以上
上記以外の居室 0.3回/h以上
換気回数とは
1時間当たり居室内の空気が入れ替わる回数。0.5回は居室内の空気の半分が入れ替わること。
対策3
機械換気設備を設ける場合には、天井裏、床下、壁内、収納スペースなどから居室へのホルムアルデヒドの流入を防ぐため、次の①~③のいずれかの措置が必要となります。収納スペースの建具に空気取り入れ口などを設計、かつ、居室と一体的に換気を行う部分については居室とみなされ対策Ⅰの対象となる。
(↓テーブル)
①建榔こよる措置 天井裏などに第1種、第2種のホルムアルデヒド発散建築材料を使用しない(F☆☆☆以上とする)
②気密層、通気止めによる措置 気密層又は通気止めを設けて天井裏などと居室とを区画する。
③換気設備による措置 換気設備を居室に加えて天井裏なども換気できるものとする。
環境省
環境省では平成12年5月に循環型形成推進基本法のひとつとして、グリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進に関する法律)が制定されました。
同法は国の機関や地方公共団体、企業、国民に環境負荷の小さい環境物品等の調達・購入を推進するとともに環境物品等に関する適切な情報・提供を促進することにより、持続可能な社会の構築をめざすものです。
平成13年2月、国等の各機関で重点的に調達を推進する特定調達品(グリーン商品101品目)が14分野にわたり公示されました。平成14年4月から塗料関係の品目として公共工事の分野において「下塗り塗料(重防食)」(鉛・クロム等の有害重金属を含む顔料を配合していないこと)が指定されました。
東京都
環東京都環境局より平成14年7月、化学物質の子どもガイドライン(鉛ガイドライン塗料編)が示されました。子どもへの有害性が疑われる化学物質を選定し健康への影響を未然に防止するために講じられたガイドラインです。
都民・事業者及び子どもが多く利用する施設の管理者が代替品への転換や代替物質がない場合は、使用量を抑制する方策に向けた内容としています。
●概要
子どもが多く利用する施設や遊具の塗装には、鉛フリーの塗料を使ってください。
都は鉛フリー塗料の積極的な利用をお願いしていきます。
製造事業者は鉛フリー製品であることを表示し、鉛フリー塗料の使用拡大を図ってください。
子どもが多く利用する施設の管理者は、遊具や建築物の上塗り塗料及び下塗り錆止め塗料等には鉛フリー塗料を使ってください。
子どもが多く利用する施設の設計者は、塗料には鉛フリー塗料を指定してください。
子どもが多く利用する施設では、塗膜の剥離がないことを確認してください。
(鉛フリー塗料として、塗膜中の鉛の含有量を0.06%以下に設定)
●塗り替えをする時は
既に塗られている塗料の成分や鉛の含有量を確認してください。
シートを張る板張り防護など塗膜片の飛散や落下による周辺への汚染防止対策を行ってください。
日本塗料工業会
(社)日本塗料工業会では以下のように室内建築塗料の目標基準を設定しています。
(↓テーブル)
塗料設計条件 エマルション塗料 溶剤系塗料
TVOC l%以下 –
芳香族来溶剤 0.1%以下 1%以下
アルデヒド類 0.01%以下 0.01%以下
重金属類(鉛・クロム等 0.05%以下 0.05%以下
発癌性物質、生殖毒性物質、変異原性物質 0.1%以下 0.1%以下
感作性物質 0.1%以下 0.1%以下
注)
1.重金属類とは、鉛、クロム、カドミウム、砒素、水銀とする。
2.アルデヒド類はホルムアルデヒド、アセトアルデヒドを対象とする。
3.各項目に対する物質の濃度は塗料重量に対する物質重量%とする。
またこの場合の塗料とは塗装状態(例えばシンナーで希釈したもの)とする。
従ってシンナーを使用する場合はその組成も特定する必要がある。
4.VOCは標準圧力で、沸点又は開始点が260℃以下の化学物質とする。
5.TVOCは組成中の全てのVOCの合計値とする。
6.芳香族系溶剤は、VOC対象でその骨格中に芳香族環を一つ以上含有する溶剤。
経済産業省
室内空気汚染の対象となる建築材料のJISを整備し、平成15年3月にホルムアルデヒドに関する規定が大幅に見直しされました。
規制対象外になるJIS製品、F☆☆☆☆表示となり使用制限なし
規制対象外(塗料16品種)
(↓テーブル)
JIS K 5431 セラックニス類 JIS K 5654 アクリル樹脂エナメル
JIS K 5531 ニトロセルロースラッカー JIS K 5656 建築用ポリウレタン樹脂塗料※
JIS K 5533 ラッカー系シーラー JIS K 5660 つや有り合成樹脂エマルションペイント※
JIS K 5535 ラッカー系下地塗料 JIS K 5663 合成樹脂エマルションペイント及びシーラー
JIS K 5581 塩化ビニル樹脂ワニス JIS K 5668 合成樹脂エマルション模様塗料
JIS K 5582 塩化ビニル樹脂エナメル JIS K 5669 合成樹脂エマルションパテ
JIS K 5583 塩化ビニル樹脂プライマー JIS K 5960 家庭用屋内壁塗料
JIS K 5653 アクリル樹脂ワニス JIS K 5670 アクリル樹脂系非水分散形塗料(新規)
JISの内容
ホルムアルデヒド系防腐剤、ユリア系樹脂、フェノール系樹脂及びメラミン系樹脂のいずれをも含まないもの。
ホルムアルデヒド放散量0.12mg/L以下。
※現在のところ、JISマーク表示制度は適用されていません。
規制対象となり、第1種ホルムアルデヒド発散材料となる塗料及び仕上塗材
ただし、ホルムアルデヒドに関する品質規定に該当するものはF☆☆~F☆☆☆☆マークが表示できる。
規制対象(塗料11品種)
(↓テーブル)
JIS K 5429 アルミニウムペイント JIS K 5621 一般さび止めペイント
JIS K 5511 油性調合ペイント JIS K 5667 多彩模様塗料
JIS K 5516 合成樹脂調合ペイント JIS K 5961 家庭用屋内木床塗料
JIS K 5562 フタル酸樹脂ワニス JIS K 5962 家庭用木部金属部塗料
JIS K 5572 フタル酸樹脂エナメル JIS K 5970 建物用床塗料(新規)
JIS K 5591 油性系下地塗料
JISの内容
ホルムアルデヒド放散量 1.8mg/L以下F☆☆
ホルムアルデヒド放散量 0.35mg/L以下F☆☆☆
ホルムアルデヒド放散量 0.12mg/L以下F☆☆☆☆
規制対象(仕上塗材5種顆)
(↓テーブル)
JIS A 6909 建築用仕上塗材
・内装薄塗材E・内装厚塗材E・軽量塗材・複層塗材E・防水形複層塗材E
内装用の仕上塗材で、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂及びホルムアルデヒド系防腐剤の使用していないものはF☆☆☆☆マークが表示できる。
今後の規制とTVOC
今回の建築基準法の一部改正の中で次のような付帯決議があります。「屋内空気汚染による健康障害が生ずると認められる化学物質については、全て規制対象とするよう、室内空気中の化学物質の濃度の実態や発生源、放散量等の調査研究を進めその結果の得られたものから、順次規制対象にすること。」これは、近い将来に厚生労働省のリストから順次規制対象品目が出されると考えられます。ですからVOCの総量(TVOC)が出来るかぎり低い塗料が良いことは明白です。
健康・環境配慮形塗料の選定基準
ホルムアルデヒド放散等級分類が規制対象外の製品(F☆☆☆☆表示品)を選ぶ。
水系塗料ではTVOCが日本塗料工業会の目標基準である1.0%以下の製品を選ぶ。
下塗、上塗ともに鉛・クロム化合物を含まない製品を選ぶ。